2012年5月9日水曜日

原発と憲法 無防備ニュース


 原発と憲法

             澤野義一 大阪経済法科大学教授 

 原子力の軍事利用(核兵器の製造・使用など)には反対するが、平和利用(電力発電用原発)は容認するという、これまでの二重の基準ないし区分論は、三月に起きた福島原発事故が及ぼしている深刻な事態に直面し、見直しを迫られている。日本では、核保有の是非や違憲性論議については多くの議論がなされてきたが、原発の違憲性を問うような憲法論議は、平和憲法擁護論者からもほとんどなされてこなかった。しかし、今回の福島原発事故を契機に、原発(運用)自体の違憲性についても改めて考える必要が出てきている。
さて、日本国憲法は原発を禁止する規定をもっていないが、原発を容認するものと解することは適切であろうか。これについては、基本的人権と非戦・非武装平和主義の憲法九条との観点から、後で検討することにして、まずは世界の憲法の中で、原発を禁止している例を紹介しておくことにする。それは、一九七九年ミクロネシア連邦憲法、一九八一年パラオ憲法、一九九九年オーストリア憲法であるが、核兵器とともに原発も禁止している。
ミクロネシア連邦とパラオの憲法は、マーシャル諸島で何度も行われたアメリカの原水爆実験の被害体験を踏まえて制定されたものである。ただし、ミクロネシア連邦憲法は、パラオ憲法のような原発使用禁止の表現ではなく、放射性物質の貯蔵・使用などの禁止という表現になっている。また、ミクロネシア連邦憲法は政府の明白な承認がある場合、パラオ憲法は四分の三以上の国民投票の承認がある場合、核・原発使用が可能になる余地を残しており、核・原発の無条件禁止規定になっていない。その点、オーストリア憲法(非核憲法)は、核分裂によるエネルギー生産を目的とする施設建設と、既存の当該施設がある場合の始動の禁止という表現で、原発(核兵器の製造・実験・使用なども同様)を無条件で禁止している。
オーストリアの非核憲法は、世界でいち早く制定した同国の一九七八年「原発禁止法」を踏まえたものである。この原発禁止法は、ドナウ川のツベンテンドルフ原発建設反対に関する国民投票の結果を反映して制定されたものであるが、原発反対理由としては、放射能放出による人間の健康への危険性、核廃棄物の管理・処分の未解決問題、原子力の平和的エネルギー利用と軍事的産業の結びつき、原子力災害時の緊急対処計画の不十分さ、原発建設地域で大地震がこれまでに発生していることなどがあげられている。なお、同法は一九八三年には憲法裁判所から合憲であるとの判決も得ている。
原発禁止法制定以降、スリーマイル島(一九七九年)やチェルノブイリ(一九八六年)の原発事故が起こったことのほか、オーストリアが一九九五年にEU加盟する際に保守政党がNATO加盟を主張し出したことを契機に、核兵器の国内配備や通過も禁止しておく必要から、核兵器使用などと同時に原発も禁止する非核憲法が制定されたのである。同国は非核・脱原発に加えて、外国軍事基地を容認しない「永世中立」の憲法政策もとっているが、これは憲法九条を有する日本政府が本来実践すべきものである。それはともかく、結局オーストリアでは核兵器も原発も違憲といえる。
それでは、この問題は核兵器や原発を禁ずる明文規定がない日本国憲法ではどう考えるべきなのだろうか。
核兵器保有について、政府は自衛権(必要最小限自衛力)を論拠に合憲としてきているが、憲法九条が禁ずる明白に違憲の「戦力」「武力」であり、核兵器を使用すれば「武力行使」に当たり違憲となる。原発については、潜在的に戦争手段に転用できる違憲の「戦力」と解することができよう。一九五〇年代から原子力の平和利用を名目に原発関係の立法と運用計画がなされたが、政治家たちの中には原子力兵器をもつ能力をつけることも意図していたことは明らかである。最近、自民党の石破茂議員は、核(兵器)の潜在的抑止力を維持するために原発をやめるべきではないと述べている。
原発については、上記の問題点のほか、原発の放射能汚染により、憲法が保障している住民の生命権をはじめとして、生存権、環境権、居住・移動権、財産権、勤労権、営業権などの多面にわたる人権侵害が、公害に比べ、広範囲かつ永続的に生ずる危険性が現実的に明確になった以上、原発稼働は違憲とみるべきである。放射能汚染による人権問題は、とくに憲法一一条や九七条の精神に立脚して、「現在の国民」にのみ関するのではなく、「将来の国民」(未来世代)にまでかかわる深刻な問題であるという観点から考える必要がある。
また、原発に対する他国やテロ集団の武力攻撃による住民の「平和的生存権」(憲法前文)侵害の危険性も、原発存在の違憲性の論拠になろう。
原発に関する以上のような憲法解釈論については、原発を禁止する憲法を有しないが、原発を違憲とした中米コスタリカの最高裁憲法法廷判決(二〇〇六年)が参考になる。この判決は、ウランなどの析出、核燃料および核反応機の製造を可能とする政令に対し、同国憲法の平和の価値や健全な環境を求める権利を侵害し、違憲無効としたものである。なお、コスタリカは、日本国憲法九条に近似する非武装平和憲法をもち、非武装永世中立宣言もしていることでも知られている。
 要するに、日本国憲法において原発が違憲であると解されるならば、現存の原発稼働は許されず、停止・廃止すべきことになる。国会では脱原発法(原発禁止法)を制定し、自治体では、非核平和都市宣言の中に脱原発宣言を含めるなどの運動が今後検討される必要があろう。あるいは、原発禁止を含むアメリカのバークレー市「非核条例」のようなものを制定すること、また、日本でこれまで追求されてきた「無防備平和都市条例」の中に、脱原発条項を追加することなども検討課題である。

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